三塩化ヒ素(Arsenic trichloride)は、AsCl3という化学式を持つ無機化合物である。毒性を持つ油状の物質で無色であるが、不純物を含むものは黄色を呈する。有機ヒ素化合物を製造する際の中間体となる。

構造

三塩化ヒ素は、C3v対称性を持つピラミッド状の分子である。As-Cl結合は2.161Åの長さで、Cl-As-Clの角は98°25'±30である。三塩化ヒ素は、ν1(A1) 416、ν2(A1) 192、ν3 393、ν4(E) 152 cm-1の4つの通常振動モードを持つ。三塩化ヒ素はほぼ共有結合であり、そのため融点は低い。

合成

三塩化ヒ素は、三酸化二ヒ素を塩化水素で処理し、その後蒸留することによって製造される。

As 2 O 3   6 HCl 2 AsCl 3   3 H 2 O {\displaystyle {\ce {As2O3\ 6HCl -> 2AsCl3\ 3H2O}}}

また、ヒ素を80〜85℃で塩素化することによっても得られるが、この方法には、ヒ素元素が必要である。

2 As   3 Cl 2 2 AsCl 3 {\displaystyle {\ce {2As\ 3Cl2 -> 2AsCl3}}}

酸化ヒ素と一塩化硫黄の反応によっても得られる。この方法は単純な器具しか必要とせず、また効率よく進む。

2 As 2 O 3   6 S 2 Cl 2 4 AsCl 3   3 SO 2   9 S {\displaystyle {\ce {2As2O3\ 6S2Cl2 -> 4AsCl3\ 3SO2\ 9S}}}

反応

水による加水分解で、亜ヒ酸と塩酸になる。

AsCl 3   3 H 2 O As ( OH ) 3   3 HCl {\displaystyle {\ce {AsCl3\ 3H2O -> As(OH)3\ 3 HCl}}}

三塩化ヒ素は三塩化リンよりも感湿性が弱いが、それでも湿気を含んだ空気中では気化する。

三酸化二ヒ素で処理することで、無機ポリマーのAsOClを形成する。塩素源の下では、三塩化ヒ素は [AsCl4]-を含む塩を形成する。臭化カリウムやヨウ化カリウムと反応させると、それぞれ三臭化ヒ素や三ヨウ化ヒ素が得られる。有機ヒ素化合物の合成に有益で、三塩化ヒ素からトリフェニルアルシンが合成される。

AsCl 3   6 Na   3 C 6 H 5 Cl   As ( C 6 H 5 ) 3   6 NaCl {\displaystyle {\ce {AsCl3\ 6Na\ 3C6H5Cl\ -> As(C6H5)3\ 6NaCl}}}

安全性

ヒ素化合物は非常に毒性が高いが、三塩化ヒ素はその揮発性や溶解性のために、特に毒性が高い。

出典


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